医療デマや陰謀論への(ハームリダクション)アプローチについて

鍼灸業をしてると「医療デマにかかわってしまった、信じてしまったがゆえに健康被害にあってしまった」ひどい場合には「死期を早めてしまった」という残念な話を聞くことがある。がんの医療デマなどはとくにその典型例である。がん患者は代替医療・補完代替医療を選択することで予後(生存率)が悪くなる。というデータもある。特に注意が必要であるし医師や研究者は警鐘を鳴らしている。しかしながら、科学を重視する医師や研究者がこの問題について啓発しようとすると命を救いたいという熱意からか「どうしても、否定が行き過ぎてしまう」という問題も散見される。上記の記事でいうならば、予後が悪かったという結果に対しだから補完代替医療は悪いと結論を急ぎがちな意見も見受けられる。(そして当然逆の結果になるというような実験やデータも存在する。)そうなってしまうと「果たしてその啓発が本当に患者を救うことのなるのだろうか?」と疑問を持つことさえある。私自身は行き過ぎた行為、例えば代替医療やニセ医学など科学的に正しいことではないものを排除し徹底的に否定しようとする姿勢は一見、マクロ的(社会的)問題解決には良さそうに見えるがミクロ的(個人的)問題解決にはつながらないのではないか?そうなると結局は人を救うことが出来ないのではないか?社会的な問題解決にもならないのではないか?という疑問も持っている。この点を正確に論じようとするならばある事象に対する結果を追跡調査し、さらにデータを蓄積していく必要性はあるが、まずは医療デマ・陰謀論とどのように対峙したらいいのか?自分なりの考え方を順を書いていく。(代替医療全般、ワクチン忌避、陰謀論などの問題などにも通じる話だと思う。)

患者の視点で考えてみる。患者が医療デマと言われるようなものを信じるに至るまでには必ず経緯があり、物語(ナラティヴ)があり、理由がある。それは家族を医療事故で亡くしたことかもしれないし、現代医学に対する不信感かもしれないし、何か嫌な経験があったのかもしれない。医療者として患者のナラティブに注目することもEBMの実践の一つでありアプローチの一つである。だからまずは患者の話を否定せずによく聞いて物語を把握することが重要である。そして次に心理学的な視点で考えてみる。そもそも科学的に正しい話、事実が人の意見を変えることはないという多くの実験や証拠がある。だから科学的事実だけで相手を説得できることはないと思った方が良い。

次に社会的な視点で見てみる。医療デマの問題は歴史上排除できたことはないし、禁止やバッシングだけでうまくいくったケースがあるとはとても思えない。禁止すれば、アンダーグラウンドになりより過激になるだけだ。現在は厚生労働省も情報サイトe-JIMなどで「正しい情報公開」を行って補完代替医療との付き合い方を啓発している。結局は禁止することはできないし、こうしたアプローチしかないのではないかとも思う。これは薬物の問題に構造がよく似ている。薬物問題も禁止や厳罰で問題を排除することが難しい。だから薬物やアルコール依存症には「ハームリダクションアプローチ」が有効とされポルトガルなどをはじめとする国で採用され注目されている。ハームリダクションとは簡単に言えば現実を受け入れ、どうすれば被害を最小限にできるか?考えるアプローチである。医療デマなどの問題にも、個人的な問題解決のための視点からはすぐに患者の考えや言動を否定せず、まずは話を聞いた方が良いのは間違いないだろう。社会的な視点からはデマを広げている人に対して何らかのペナルティを貸すことは検討しても良いと思うがバッシングが行き過ぎてしまうと私刑を与えることにもなりかねないし、結局は患者のためにもならないので十分な注意が必要である。またどうしても治らない病気もありその現実を受け入れて、より良い状態を考えていくこともハームリダクション的な考え方の一つであろう。

注意しておきたいのは医療者側が正しい医学知識と正しい倫理観を持っていた場合にのみ上記のような話が成り立つ点である。補完代替医療を提供する側も現代医学を否定せずに、患者を通常医療に誘導することが大切ではないか?と考える。補完代替医療を選択するメリットだけではなくデメリットについても患者によく伝える必要があるし、悪い情報も正直に伝えるべきだと思う。がん患者の場合ならば補完代替医療と通常医療との併用を選択した場合でも予後が悪いというデータは伝えた方が良いであろう。

整理すると以下のようになる。

1,患者のナラティブの把握(話をよく聞く)

2,ナラティブが科学的に間違っていたとしても否定しない。どうすればダメージを最小限にできるかも含めて考える。(ハームリダクション的アプローチ)

3,その上で通常医療に誘導する。正しい医学的な知識や補完代替医療との付き合い方を伝え一緒に考える。

最後にSDM(シェアードディシションメイキング)という考え方を紹介しておく。これは科学的根拠や患者の希望を考慮した上で、医療者と患者がともに情報をシェアし理解し意思決定をしていこうという考え方のことである。インフォームドコンセントのような説明し、同意を得るという形からさらに踏み込んだ意思決定の方法である。患者の価値観が多様化したことや治癒やゴールの希望が多様化したことから提唱されている概念でもある。

科学的・医学的に正しいことだけが、その患者にとって正しいこととは限らない。(サッカー高原選手の例など)・・・ただしそれが言えるのは正しい医学的な知識を持ち、正しいバランス感覚を持って意思決定をした場合のみ、ではないだろうか?結論を急ぎすぎたりバランス感覚を欠く判断は間違うことが多い。両面からの検討が必要であるし、日々の勉強も必要であるし、相手の意見や考えに注目する姿勢も大事なのである。

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