『超高齢化社会を迎えた際にも、鍼灸師が地域社会に貢献できるようになるために。』~すぐにでも身につけるべき2つの大切な考え方。

私は東京都西東京市という郊外エリアで、いわゆる不定愁訴といわれるような鍼灸の得意分野での問題解決を仕事にしている。私の理想を実現するには「学校教育の講義時間を増やす」とか、「卒後研修を設ける」とか、色々と意見はあるのだが個人でもすぐに実践できることを提言としてまとめた。結論から言えば技術も大切だが「2つの考え方」を先に身に着けることをお勧めする。私は開業鍼灸師だが他医療者とのコミュニケーションスキルも高まるため病院や介護施設で勤務している鍼灸師にとっても大切なことかもしれない。

日々鍼灸臨床を行っていて思うことはたくさんあるが一番痛感することは「鍼灸師は現代医学を学ぶ時間が圧倒的に足りていない。」という点だ。そもそも3年間という専門学校の短い養成期間であったが私が鍼灸師登録をしたのは平成16年で当時の鍼灸専門学校では医学論文を読む授業はなかったしEBM(Evidence Based Medicine)について学ぶ機会もなかった。しかしながら他の近隣医療機関では現代医学を中心に動いていることがほとんどである。薬の名前や治療に対する根拠など科学的な知見を身につけ「共通言語」を持たなければ他医療従事者と話もできない。これから高齢化社会を迎えるにあたって医療や介護分野では働き手が足りなくなるのだ。しかし、東洋医学的知見のみで現代医学的な知識や科学的知見という「共通言語」がなければコミュニケーションがうまく取れず、地域の中でも孤立してしまうのではないか。また医師間では紹介状のやり取りは当たり前になされるが鍼灸師の場合は病院への紹介状書き方など学ぶ機会もない。(幸い著者は日本東方医学会の医鍼薬地域医療研究会に参加し、学ぶことが出来た。地域医療連携を学ぶ勉強会は各地で増えているので参加するのも良いだろう。)それから、緊急性がある疾患などを鑑別し速やかに専門機関に受診を勧める等ができないとクライアントに不利益を与え、事故を起こす可能性も増えてしまう。だから鍼灸師が超高齢化社会を迎えても地域社会に貢献できるよう以下2つの「考え方」をすぐにでも身につけ、実践することをお勧めする。

まず一つ目は「EBM的な考え方」・「情報に基づく意思決定の仕方」を身につけること。「論文を読むこと」や「知らない薬の名前を調べること」を習慣にしていけばスキルアップし続ける事ができるだろう。無駄に迷うことも少なくなる。まずは京都大学の中山健夫先生の『健康・医療の情報を読み解く 健康情報学への招待』をお勧めしたい。情報の扱い方の基礎が書かれている。まずは情報の扱い方を知らなければそもそも論文を読むこともできない。それから、くれぐれも誤解してほしくないのだが「伝統より現代医学が優れている」と言いたいのではない。伝統の素晴らしさを言いたいならばまずは現代医学のことを知らなければ説得力を持たないと言いたいのである。明治時代の偉人である新渡戸稲造・内村鑑三・岡倉天心といった方々が西洋文化を理解していたからこそ日本文化を発信できた事実は注目に値すると思う。まずは現代医学を理解し歩み寄ることから始めるのが良い。

そして二つ目は「ケアモデルを理解し、現代医学を否定しない」考え方を身につけることをお勧めする。ここでは東京大学医療政策人材養成講座編「医療政策」入門を参考にする。医療モデルだけでなく、心理モデル、予防・環境モデル、社会モデル等が存在しそもそも現代は疾病の原因が複雑化していて医療モデルだけでは解決できない問題が増えているのだ。例えば、高齢者のうつ病の方などを例にとり考えてみる。投薬治療も、もちろん有効であるが社会参加や予防・心理的なアプローチも必要になってくることが多いだろう。これらを理解すれば「薬ではよくならない」などと安易な言動はしなくなる。広い視点で地域医療を俯瞰することができるはずだ。

以上のように現代医学的な共通言語を身につけ、またケアモデルを理解すれば鍼灸師としての「立ち位置」もわかり楽に仕事ができるようになると考える。適切な受診タイミングを勧めたり出来るので医療機関の負担軽減にも貢献できる。これから超高齢化社会を迎えても東洋医学的知見を持ってクライアントや他医療者など関係者との信頼構築し地域社会に貢献できるよう上記2つの考え方を理解し、すぐにでも実践することをお勧めする。これを私の提言としたい。

★こちらの文章は2020年9月30日に発売された鍼灸業界紙「あとはとき8号」に掲載された白石の文章の原型になります。

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