僕は20代の頃
店舗型の職場で働いていたことがある。
その時の話を書こうと思う。
「人間関係でのつまづき」
についてだ。
どの職場でも
人間関係の悩みは多いだろうから
似たような経験をした人も
いるかもしれない。
・・・その時、
僕は上司から同じように
働いていたあるスタッフについて
相談された。
その彼は最近転職し店舗に入ってきた。
年齢は当時で30代。僕より年上だった。
話すときにあまり目を見てくれないかと
おもいきややたら饒舌に
丁寧に話しかけてくるときもあるので
少し変わった人だなという印象だった。
が、よく話したことは無かった人だ。
上司の相談内容は以下だ。
・ 『あの人と仕事したくない』という声が
ほかのスタッフからも多い。
・ お客さんからのクレームも多い
だから何とかしてほしい。
・ 根はマジメだと思うが
このままでは彼に対する評価は
「仕事ができない人」
ということになってしまう。
何とかしてほしい。
・・・何とかしてほしいといわれて
僕に何とかできる訳ないだろう、
しかも年齢は僕より年上だ。
やりたくない・・・
正直そう思ったが
簡単にあきらめるわけにもいかないので
まずはいろいろ考えてみることにした。
まず彼がなぜほかのスタッフから
苦情を言われているのか観察してみた。
そこでわかったことは以下だ。
(1)どうやら気に入らないことがあると
顔に出してしまったり、舌打ちしたり
「僕は今怒っているぞ」アピールを
してしまっていた。
これはとても嫌われるどころか、
彼自身の評価が下がってしまう。
何の意味も持たない。
お客さんからのクレームもそうだ。
気に入らないことを顔に出してしまう。
(2)それに加えて
「いわゆる空気が読めない」
言動をしていることがわかった。
お客さんとの会話で
なぜかよく自分の話をしていた。
(3)融通が利かないようだった。
自分のルールから外れたことに対し
慌てる、対処できない、パニックになる。
彼は学生時代勉強は
一生懸命やっていたようだ。
成績もそれなりに良かった。
入社してから遅刻もしないし
いい加減な人間ではないことも
良くわかった。
確かに上司が言うように
根が悪い人ではないのだろう。
・・・
私は困り果ててしまった。
どうにかしろといわれて
どうにかなるのか?
対策をネットで検索してみた。
するとたくさんの人が
いろいろな意見を書いていた。
多分この手の話って
いろんなところであって
みんな困っているのだろう。
大人の発達障害だ、とか
そんな話も出てきた。
自分の判断では良くわからない。
そして何か言葉が独り歩きしている
印象も受けた。
決めつけるのもよくないだろう。
・・・
正直僕にはどうしたらいいか
よくわからなかった。
だから僕はまず
彼と話をしてみることにした。
喫茶店で話をした。
まず第一にクレームが出ていて
上司も他スタッフも困っている、
という話を正直に伝えた。
その結果ひどく狼狽し
何やらよくわからない言い訳をしだした。
そこでわかったことが
またいくつかあった。
・ 認知の歪みがすごい
過去に経験したトラウマのせいなのか?
良くわからないが
僕が指摘したことに対し
過剰に反応し狼狽していた。
だからまずは
「僕はあなたの敵ではない」
というところから
丁寧に説明する必要があった。
・ 否定されたという気持ちが
先にきてしまい反省できない
反省しないのではなくできない、
ということもよくわかった。
指摘されたことを否定と
とらえてしまうため自分の行動を
振り返ることが苦手なようだった。
その結果、日々の言動を
反省することができないでいるようだった。
・ 自分のルールから外れた人を
変えようとする
これが最も無駄だと思った。
自分ルールの中にハマらない人を
批判したり変えようとして他のスタッフと
しばし衝突していた。
相手を変えることも
自分の正しさを
証明しようとすることも
できるはずもない。
うまくやっていくしかないのだ。
・・・以上のようなことがわかったが
それと同時に
「これは少し時間をかけて僕を
信頼してもらわないとだめだろうな」
とも思った。
多分一気に変わるのは無理だろう。
彼は仕事が出来ないと言われていたが
問題は別のところにある事もわかった。
能力の問題よりも認知の問題だったり
仕事内容より人間関係でつまづいていた。
だから、その日から私は毎日
積極的に彼に話しかけたり
関心を持つようにした。
その結果少しずつではあるが
彼が私に対して心を
開いてくる手ごたえを感じた。
どうやらやはり
彼は仕事というよりも人間関係で
何度も失敗し
ひどく傷ついているようだった。
信頼関係が得られたからか
実は前の仕事も
人間関係が原因で退職した、
また親との関係がうまくいってない
という話をしてくれた。
僕は
「そのままだと自分が困るよ」
ということを丁寧に説明した。
それと同時に
あなたにはいいところもたくさんある。
という話もした。
しかしほめすぎると
やはり自分が正しい、
「俺さまモード」
になることもありやや苦労した・・・。
しばらくそんなやり取りが続き
彼はあまり問題を起こさないように
なったと感じていた。
僕は少し安心した。手ごたえもあった。
その後、
僕は別の店舗に移動になった。
彼と接する機会はなくなったのだ。
しかしどうやら彼は
結局退職したらしいと話を聞いた。
自分ごときが
何とかできるとは思っていなかったが
何とも残念な気持ちになった。
もしかしたら職場で話を聞くレベルではなく
カウンセラーや専門家に
回すべきだったのかもしれない。
今の僕ならそういった選択肢も頭にあるが
当時の僕はそれができなかった。
ただただ残念だ。
もしも
職場の人間関係で悩んでる人がいたら
相手は自分が手に負えない人かもしれない
ということも視野に入れるべきだと学んだ。
何とかなることもあれば
結局何とかならないこともある。
今彼は何をしているだろうか?
幸せを願わずにはいられない。